介護保険の適用を受けて各種の介護サービスを提供するためには、介護保険サービスの指定事業者でなくてはなりません。この指定事業者になるためには、さまざまな要件を満たしたうえで指定権者に申請して指定を受ける必要があります。
しかしながら介護サービスは多岐にわたっており、サービスの実施主体や指定事業者も都道府県・市町村にわかれており、申請書式もまちまちでローカルルールも存在します。介護から介護予防へのシフトに伴って、新しいサービスの創設やサービスの統廃合なども進められてきており、ますます複雑になってきています。
このような介護保険と取り巻く状況およびサービスの質や人材の担保などの事情も相まって、指定事業者の申請もわかりにくいものとなっています。常勤換算という独特の人員算定や勤務体制要件、加算などの複雑な介護給付費の算定、さらには介護職員の処遇改善など、極めて独特な手続きと申請書類が存在します。このような介護保険サービスと指定申請の概要についてみていきます。
介護保険サービスの種類
指定事業者の申請を行うにあたっては、まずは介護保険サービスの種類とそのサービス対象や実施主体、指定権者などを知る必要があります。
以下の表は、大まかにまとめたものです。
主な 対象 |
都道府県が指定・監督 | 市町村が指定・監督 | |||
介護 給付 |
要介護 1~5 |
居宅サービス(訪問介護) |
地域 密着型 |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 |
|
予防 給付 |
要支援 1・2 |
居宅サービス(訪問介護) ・介護予防訪問入浴介護 ・介護予防訪問看護 ・介護予防訪問リハビリテーション ・介護予防居宅療養管理指導 居宅サービス(通所介護) ・介護予防通所リハビリテーション ・介護予防短期入所生活介護 ・介護予防短期入所療養介護 ・介護予防特定施設入居者生活介護 ・介護予防福祉用具貸与 |
地域 密着型 |
地域密着型通所介護 ・介護予防認知症対応型通所介護 ・介護予防小規模多機能型居宅介護 ・介護予防認知症対応型共同生活介護 |
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総合 事業 |
訪問型サービス ・現行相当(介護予防訪問介護から移行) ・基準緩和型 通所型サービス ・現行相当(介護予防通所介護から移行) ・基準緩和型 その他の生活支援サービス ・配食、見守りなど |
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ケアプラン | 居宅介護支援 介護予防支援(地域包括支援センター) |
※ 総合事業のサービスには、必ずしも要介護認定の必要なし
提供したいサービスに合わせて、さらに「人員基準・設備基準・運営基準」を満たした上で申請書類と添付書類を整えて、該当する指定権者に提出して指定を受けなくてはなりません。
総合事業とは「介護予防・日常生活支援総合事業」とも呼ばれ、今後ますます需要が増加すると予想される介護サービスに対応するために介護保険一部改正によって平成27年からはじまった比較的新しいサービスであり、ようやく浸透してきた印象です。より予防介護に重点が置かれ、従来の法人だけでなく、地域のNPOや住民も参加できることも特徴です。地域密着型サービスと同様、高齢者が住み慣れた地域で生活していくことが想定されています。
総合事業サービス施行後の介護サービスの利用イメージは、以下の図の通りです。
介護サービスを提供する側だけでなく、受ける側の視点からも理解することが重要だと考えます。
総合事業のサービスは、従来の介護予防サービスや地域密着型サービスなどと混同しやすい部分もあるため注意が必要です。
指定事業者の申請基準
介護保険事業者の指定を受けるためには、以下の基準を満たしていることが必要です。
① 法人である
② 人員基準、設備基準を満たしている
③ 運営基準を満たして、適切な事業の運営ができる
④ 欠格事由に該当しない
まず原則として、法人でなくてはなりません。株式会社などの営利法人、社団法人などの非営利法人のいずれも認められています。訪問系サービスでは株式会社などの営利法人が多いようですが、介護老人福祉施設は社会福祉法人、介護老人保健施設は医療法人の場合が多くなっています。
人員基準と設備基準が主要な基準と考えられ、運営する介護サービスによって大きな違いがあります。訪問系サービスは比較的緩く、通所系・入所系は厳しい傾向にあります。
運営基準とは、事業を運営するにあたって事業所が行うべき事項や留意しなければならない事項などで、事業運営を行ううえで遵守するべきルールと言えます。提供するサービスによって異なる部分もありますが、利用者やその家族に対してする説明・文書交付や同意、料金の受領など共通する部分も多くあります。実際には、運営規定に記す内容が多いす。
欠格事由としては、過去5年以内に指定事業者の取り消し処分などを受けていることなどが挙げられます。事業者(申請者)のみでなく、法人の役員などについても問われます。
指定基準だけを見ると全般的に、ヒト(人員基準)・モノ(設備基準)の要素の比重が高く、カネ(財務基盤など)の要素はあまり問われない印象です。ただし、事業計画書はきちんと作りこまなくてはならないので、やはり一定以上の財務基盤は必要と考えられます。
代表的でニーズも高い介護サービスである訪問介護(ホームヘルパー)と通所介護(デイサービス)を例に、申請基準の概要についてみてみます。
人員基準
提供サービスに応じて、人員基準が定められています。代表的な職種としては、常勤管理者や介護支援専門員(ケアマネージャー)が挙げられますが、看護職員、生活相談員、介護職員、機能訓練指導員など様々な職種の基準があります。利用者数によって必要な人員の数が定められています。職種によってはパートタイマーなど勤務時間が均一でないケースも多いため、常勤換算と呼ばれる計算方法で人員配置基準を算定する場合もあります。
管理者と呼ばれる職種は、提供サービスや人員管理など業務全体のマネジメント(管理業務)を行う者で、ほぼすべての介護サービスで必要になります。特別な資格は必要とされていません。常勤で専従の必要がありますが、一定の条件を満たせば多職種との兼務も可能です。
代表的な介護サービスの人員基準は以下のようになっています。
訪問介護の人員基準
次の3職種の人員配置を行う必要があります。
① 訪問介護員:常勤換算で2.5人以上(サービス提供責任者を含む)
② サービス提供責任者:常勤職員で専ら訪問介護業務に従事する者のうち1人以上
③ 常勤管理者:護事業所の責任者で専ら管理の職務に従事する常勤1人(兼務可能)
通所介護の人員基準
次の職種の人員配置を行う必要があります。
① 管理者:常勤1名(兼務可能)
② 生活相談員:1名以上 (複数いる場合は兼務可能)
③ 看護職員:専従1名以上 (複数いる場合は兼務可能)
④ 介護職員:1名/利用者15名(端数が増えるごとに1名増)
⑤ 機能訓練指導員:専従1名以上(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師など)
設備基準
介護事業所 では、食堂や機能訓練室、静養室、事務室(相談室)などさまざまな設備が必要になります。提供サービスの種類や規模によって設備基準が設けられています。また、消火設備についてもそれぞれの施設にあった必要な設備や備品などを備えなければなりません。
代表的な介護サービスの設備基準は以下のようになっています。
訪問介護の設備基準
利用者宅でのサービス提供になるため特に面積は定められていませんが、事業に必要な事務所(専用区画)やプライバシーに配慮した相談室は必要です。また、衛生に関する設備やその他の備品も必要です。
① 電話・FAX・パソコン・プリンター・書棚・鍵付き金庫
② 専用の自家用車
③ 手指を洗浄するための洗面台・液体せっけん・消毒液など
通所介護の設備基準
食堂、機能訓練室、静養室、事務室(相談室)、設備や備品などを備える必要があり、食堂・機能訓練室は定員1名当たりの必要面積の規定もあります。
① 食堂・機能訓練室:合計面積が1人あたり3㎡以上(食事を行う場所と機能訓練を行う場所は兼用可能)
② 相談室:相談の内容の漏えいを防ぐため個室が望ましい(パーテーションでの仕切でも可)
③ 事務室:広さの規定はないが、専用区画が必要
④ 静養室:専用ベッドの設置が必要
⑤ トイレ:車いすを使用できるスペースが必要で、複数設置する必要あり
⑥ 浴室:必要に応じて設置
運営基準
運営基準も提供サービスによって、規定されています。サービス内容の説明と同意、利用利金に関する事項、運営規定に定める事項など共通する部分もあります。申請だけについてであれば実務上は、運営規定に盛り込む内容に配慮することがほとんどです。
代表的な介護サービスの運営基準は以下のようになっています。
訪問介護の運営基準
- 利用申込者に対するサービスの提供内容および手続の説明および同意
- 提供拒否の禁止
- 被保険者資格、要介護認定の有無および要介護認定の有効期間の確認
- サービス担当者会議等を通じた心身の状況等の把握
- サービスの提供の記録
- 利用料などの受領
- 訪問介護計画の作成および利用者の同意
- 利用者に関する市町村への通知
- 利用者の病状の急変など緊急時における主治医への連絡等の対応
- 事業運営についての重要事項に関する規程(運営規定)の制定
- 介護等の総合的な提供
- 訪問介護員等の健康状態の管理、設備、備品等についての衛生管理
- 苦情を受け付けるための窓口の設置等苦情処理に必要な措置および記録
- 事故発生時における、市町村、利用者の家族、居宅介護支援者等への連絡等必要な措置と記録など
通所介護の運営基準
- 提供するサービスに応じて、利用者の選定により通常のサービス提供地域を超えて行う場合に発生する費用(送迎費、長時間または超過時間のサービス費用)、食材、おむつの費用、そのほか日常生活のための物品費用について、料金表などに定めがある。
- 通所介護計画を作成している。
- 利用定員を超えるサービス提供を行わない。
- 利用申込者に対して、運営規程の概要、職員の勤務体制、苦情処理体制などについて文書を交付、および説明を行い、同意を得たうえでサービスを提供する。
- 従業員の勤務体制などを明確にする。
指定申請手続きの概要
介護事業者の指定申請手続きは、提供サービスの特性を理解したうえで前述までの基準を満たして、指定申請書類一式を取りそろえなくてはなりません。ただ書類を取りそろえて窓口に提出すればよいというものではありません。自治体への事前相談や消防の検査など必要な手順を踏む必要があります。
指定申請手続きの流れ
自治体によって多少の違いはありますが、一般的に以下のようになっています。
① 都道府県や市町村と事前相談(説明会や研修会などが行われる場合もある)
② 必要な書類の作成
③ 担当窓口での申請(持参・郵送は自治体によって違いあり)
④ 審査
⑤ 指定
申請の時期については、事業開始日の2カ月前の末日までなど、申請期限が決まっていることも多いので注意が必要です。通所系・入所系のサービスなどでは、使用する物件の消防検査が必要になる場合もあり、そのスケジュールも考えなくてはなりません。
提出書類
申請にあたって提出書類は、自治体によって違いがあります。ほとんどの場合、自治体のHP(介護福祉課など)からダウンロード可能で、「申請の手引き」や「提出書類チェックリス」なども提供されていることが多いです。提出書類の並び順や鑑などが指定されていることもあり、提出方法も「窓口への持参・郵送」の両方もしくはどちらかのみの違いがあります。これらの指示に従って申請しないと、受理してもらえません。
提出書類は、おおむね以下のようになります。
① 指定申請書(提供サービスに合わせて記載)
② 申請者の法人登記事項証明書、定款など(事業目的に当該サービス提供の記載が必要)
③ 従業者の勤務体制・勤務形態一覧表(資格証・雇用契約書などの写しも必要)
④ 管理者の経歴書(管理者の職歴や保有資格などを記載)
⑤ 事業所の平面図(各区画の利用方法・備品などの配置・面積などを記載)、事務所内外の写真、消防の検査済証(必要な場合あり)
⑥ 欠格事項に該当しない旨の誓約書
⑦ 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
⑧ 運営規定
⑨ 利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
その他、事業計画書や関係区市町村などとの連携の内容、近隣医療機関との協力契約書などが必要になる場合もあります。
指定の更新
指定を受けた事業者は、6年ごとに更新の手続きをしなくてはなりません。
まとめ
以上、介護事業者の指定申請の概要についてみてきました。介護サービスはその種類も多く、内容も度々変化してきています。実施主体や指定権者にも違いがあり、ローカルルールもあって、全体として非常に複雑になっています。今回は代表的な介護サービスについてのみ例示して申請の概要を見てきましたが、各々のサービスや提出書類の注意点なども多々あります。順次、解説していきたいと思います。