医療機関の宿日直許可申請

労働基準法においては、「労働時間の上限、休憩、休日、割増賃金」など様々な規定が設けられており、通常は労働者を使用する場合には、これらの規定を遵守しなくてはなりません。
ただし例外的に「断続的な宿直又は日直勤務」については、労働基準監督署長の許可を受けることにより、前述の労働基準法の規定を除外することができます。すなわち、宿日直中は、時間外労働などの労働時間とは扱われないことになります。
しかしながら、この「断続的な宿直又は日直勤務」の許可を受けるためには、一定の許可基準を満たしたうえで、許可申請を受けなくてはなりません。特に医師、看護師等の医療従事者に関しては、その業務の特殊性から細かな基準が設けられています。
昨今の働き方改革の流れを受けて、労働時間の上限制限や勤務間インターバルなどを考慮しなくてはならなくなっています。医師をはじめとする医療従事者も例外ではなく、この「断続的な宿直又は日直勤務」の許可を受けて、適正な労働時間を遵守することが求められつつあります。以下にその概要をみていきます。

許可基準の概要

許可基準については、どのような業種にも共通する事項と医療機関(医療従事者)に独特のものが厚生労働省から示されています。医療機関に関しては、両方の許可基準を満たす必要があります。こちらの資料()が参考になります。

共通的な許可基準

① 常態として、ほとんど労働をする必要がない
一般に定期的巡視、緊急の文書または電話の授受、非常事態に備えての待機等を目的とする働き方が対象となります。
なお、始業または終業時刻に密着した時間帯に、顧客からの電話の授受や盗難・火災防止を行うなど、通常の労働の継続とみなされるような働き方は、原則として許可の対象になりません。

② 宿日直手当
宿日直手当の最低額は、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の一人1日平均額の1/3以上である必要があります。具体的には、以下の計算式の通りです。

宿日直手当額の計算式

③ 宿日直の回数
宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回が限度となります。
ただし次の要件を満たせば、上記回数を超えて許可される場合もあります。

・事業場に勤務する18歳以上の者で法律上宿日直勤務を行うことができる方が宿日直勤務をした場合でも人数が不足

・勤務の労働密度が薄い場合

医師・看護師等の許可基準

① 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること
通常の勤務時間終了および開始から概ね30分以上あける必要があるとする場合が多いようです。例えば、9:00~18:00が定時であれば、宿直は18:30~翌8:30でなくてはならず、通常勤務時間に密着した前後の30分は空き時間(労働から解放される時間)でなくてはならないことになります。ただし、この空き時間の長さは、所轄の労働基準監督署によって若干の見解の相違があるようです。

② 宿日直中に従事する業務内容
前述の一般的な宿直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ります。これは裏を返せば、許可を得た宿日直勤務中であっても、通常の勤務時間と同態様の勤務に従事した時間については、労働基準法第36条の時間外労働に該当することになり、同法第37条の割増賃金を支払う必要が生じます。
よって、突発的な事故による応急患者の診療又は入院、急患の死亡、出産等があった場合、その時間については「残業手当」の支給が必要となります。

③ 宿直の場合は、夜間に十分な睡眠がとりうること
労働基準監督署の担当者によって若干の違いはありますが、以下の点が指摘されるようです。

・夜9時以降は、定期巡視(見回り)は行わないこと

・ベッド等が設置してある宿直スペースは、極力、個室とすること(一般的な当直室であれば問題ないと思われます)

ポイント

以上までをまとめると、許可基準のポイントとしては以下の事項になります。

  1. 通常勤務から、連続して宿日直勤務に入らないこと(30分以上の空き時間を作る)
  2. ほとんど労働する必要がないこと
  3. 十分に睡眠がとれること
  4. 原則として、宿直勤務は週1回、日直勤務は月1回を限度とすること
  5. 宿日直手当の金額は、職種ごとに、宿日直勤務に就く労働者の賃金の1人1日平均額の3分の1以上とすること
  6. 医療機関に独特の業務態様にも留意する

許可申請の流れ

許可申請は事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に対して行います。申請の流れは、おおよそ以下の通りです。

  1. 「断続的宿直又は日直勤務許可申請書」の作成および提出
  2. 労働基準監督署にて書類審査
  3. 申請書類に不備等がなければ、実地調査(訪問調査)に来訪
  4. 実地調査で、申請書と実際の勤務に違いがないかを確認
  5. 問題がなければ「断続的宿直又は日直勤務許可書」の交付

必要書類

必要書類は管轄の労働基準監督署によって多少に違いはありますが、おおよそ以下の通りになります。
コピーなども含めて各々2部作成します。

① 断続的な宿直又は日直勤務許可申請書[様式第10号
アルバイトの当直などについては、[様式第14号]を使用する場合もあり

② 対象労働者の労働の態様が分かる資料
・断続的宿日直勤務許可申請添付書面(病院・医師用)
・所定労働時間内におけるタイムスケジュール
・対象業務の業務マニュアル、作業規定
・業務日報、宿日直の日誌など(前月1カ月分)
・巡回の業務がある場合は、巡回経路を示す図面

③ 就業規則(該当部分)もしくは雇用契約書の写し
通常の労働時間と宿直業務の記載があること

④ 支払われるべき宿日直手当の最低額がわかる資料
宿日直手当計算書、賃金台帳の写し(計算に用いたもの)

⑤ 勤務数が分かる資料
・シフト表・宿日直予定表(前月1カ月分)
・年間総勤務日数がわかる書類

⑥ 睡眠設備の概要が分かる資料
・睡眠場所の見取図、写真
・平面図(宿直室の場所がわかるように色を付ける)
・宿直室の写真(ベッド、洗面台、シャワー室などをすべて撮影)

申請後に、個別の事案に応じて追加の資料の提出を求められる場合があります。

まとめ

以上、断続的な宿直又は日直勤務許可申請についての概要を見てきました。医療機関の宿日直許可申請に焦点を当てて解説しましたが、基本的には、どの業種にも共通の事項があって、さらに業種固有の業務態様を考慮する形になると考えます。管轄の労働基準監督署によって多少の見解の違いがある場合があるので、事前に確認する必要があります。