障害福祉サービス事業者の指定申請

障害福祉事業とは、障がいのある方や特定の難病のある方が地域で生活を継続できるよう支援する事業(各種サービス提供)のことです。根拠となる法律は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)と「児童福祉法」であり、例外はありますが、障害者総合支援法は障がい者(18歳以上)、児童福祉法は障がい児(18歳未満、児童)のサービスを規定しています。
障害福祉事業を行うためには、法律に基づく許可(指定)を受けることが必要で、この指定をとることで行政からの給付などを受けることができるようになります。この指定のしくみや基準の考え方、申請の流れは、介護事業者と似たところもあり混同しやすい部分もありますが、そもそもの対象者やサービス内容、根拠法などが違っています。障害福祉サービス事業者の指定申請の概要について見ていきます。

障害福祉サービスの概要

障害福祉サービスは、その利用者やサービスの目的、サービス内容などによって、多岐にわたります。

障害福祉事業の利用者

障害福祉サービスの給付対象者は、以下のいずれかに該当する人です。

① 身体障がい者(身体障がい児)

② 知的障がい者(知的障がい児)

③ 精神障がい者(精神障がい児・発達障害・高次脳機能障害)

④ 難病患者(障害者総合支援法の対象疾患

障害福祉事業を利用する障がい者を利用者と言い、障害度区分の認定や支給決定を受ける必要があります。窓口となる自治体によって多少の違いはありますが、おおよそ以下のようなプロセスになっています。障害区分によって、利用できるサービスも異なってきます。

現行での障害福祉サービス利用プロセスの概要(画像引用:厚生労働省

障害福祉サービスの種類

主として介護を目的とするサービス(訪問系・日中活動系・施設系)と自立や就労を目的としたサービス(居住支援系、訓練・就労系)があります。以下は、障害者総合支援法に基づく主要なサービスの一覧になります。児童福祉法に基づくサービスには、児童発達支援や放課後等デイサービスなどがあります。また、両者には相談支援系のサービスもあります。
障害福祉事業を行うためには、誰を対象としたどのようなサービスを提供するかをよく検討する必要があります。

障害福祉サービスの種類(画像出典:厚生労働省「障害福祉サービスについて}
障害福祉事業における給付・事業の概要(画像出典:内閣府-令和3年版障害者白書

介護給付とは、日常生活に必要な介護の支援を提供するサービスで、訓練給付とは、日常生活や社会生活を営む上で必要な訓練等の支援を提供するサービスです。それぞれ障害の程度などによって支給対象者が決定されます。

障害福祉と介護福祉

両者は福祉という大きな括り表現されることも多いですが、それぞれ対象者や目的、根拠法や制度などが違っています。また単に言葉の表現としては、主に介護保険の事業を介護、障害福祉事業を福祉と言ったりすることもあるのでわかりにくいです。実際は、どちらの事業にも介護と福祉の要素があるといえます。
以下は、障害と介護の制度面での比較表です。

障害福祉(児童福祉) 介護福祉
根拠法 障害者総合支援法・児童福祉法 介護保険法
対象者 65歳未満(例外あり) 65歳以上(例外あり)
自己負担 上限管理額までの範囲 原則1~3割
原資(財源) 公費・自己負担 公費・介護保険料・自己負担

障がい者も65歳以上になったときには、介護保険の第1号被保険者の対象となります。一方で40~65歳の障がい者が、特定疾病に罹患した場合には、介護保険の第2号被保険者の対象になる場合もあります。このため、障害福祉サービスと介護保険の関係が問題になります。両サービスの対象になった場合には、原則として介護保険の利用が優先され、介護保険にはないサービスの利用が必要な場合には障害福祉サービスも利用することが出来ます。また介護保険制度の支給限度で十分なサービスが受けられない場合には、不足分について障害福祉サービスを上乗せで利用することもできます。

指定の要件

障害福祉サービス事業者の指定を受けるためには、一定の基準を満たした上で都道府県知事の指定を受けなくてはなりません。指定権者は多くの場合、都道府県ですが、政令指定都市や中核市に権限移譲されている場合もあります。指定は、事業の種類、事業者ごとに行われます。

以下の要件をすべて満たしていることが必要です。

① 法人格がある
② 一定の資格・知識・技術の要件、配置員数などの人員基準
④ サービス提供を運営する上で必要や施設・設備の基準
③ 利用者負担や虐待防止などの運営基準
④ 欠格事由に該当しない

まず原則として、法人でなくてはなりません。株式会社などの営利法人、社団法人などの非営利法人のいずれも認められています。株式会社、合同会社、一般社団法人(営利型)、NPO法人などが代表的で、それぞれ資金調達・設立費用・税制面・知名度やイメージなどにメリットデメリットがあります。いずれの場合も、定款の目的に社会福祉事業を行う旨の記載が必要です。就労継続支援A型は注意が必要で、「もっぱら社会福祉事業を行う法人」でなくてはならないため、定款の目的は社会福祉事業のみであることが要件になります。
人員基準のクリアが最もコアになるとも考えられ、特にサービス管理責任者や児童発達支援管理責任者、常勤換算の考え方などは重要です。
設備基準は提供サービスによって大きく違っており、やはり訪問系では比較的緩く、施設系や訓練系などでは厳しくなっています。消防法に関する要件も重要になる場合が多いです。
運営基準は、サービス内容や提供の手順などについての基準で、利用者が負担する金額の範囲や虐待防止に関する責務などが規定されています。
欠格事項は、法人の役員などが一定の刑に処せられて執行が終わっていない、指定の取り消しから5年を経過していない、申請前5年以内に障害福祉事業において不正・著しい不当な行為をしていない、などが挙げられます。

人員基準

障害福祉事業には、有資格者や研修修了者など様々な職種がかかわって運営されています。サービスの種類によって、員数や常勤・非常勤の別など細かい人員配置基準が定められています。特に重要なサービス管理責任者、児童発達支援管理責任者と常勤換算の概念についてみてみます。

サービス管理責任者

サービス管理責任者(サビ管)は、適切なサービスを提供するための総合的な管理を行うことが主な業務です。具体的には、利用者に対するアセスメントの作成や個別支援計画の作成、これらを作成するための利用者や家族との面談、評価やモニタリング、スタッフや他の事業所との連絡調整など、サービス提供の全体的な統括業務を行います。利用者に対する支援は間接的な部分も多いかもしれませんが、その事業所を取りまとめる重要な役割を担っています。サービス管理責任者としての業務に支障がなければ、他の職種と兼務が認められる場合もあります。

このような重要な任務からサービス管理責任者の要件として、障がい者の保健・医療・福祉・就労における直接支援や相談支援などの実務経験が必要になります。保有資格や従事業務などによって、「3年」「5年」「8年」などの必要な経験年数が定められています。これらの実務経験に加えて、さらに基礎研修と実践研修を修了しなくてはなりません。

必要員数としては、共同生活援助、自立生活援助は 30:1(専従)、その他は60:1(常勤専従)、61 人~は 40:1(専従)などと利用者当たりの配置基準が定められています。

なお訪問系のサービスでは、サービス管理責任者ではなく、サービス提供責任者を配置することが要件となっています。主な職務はおおむねサービス管理責任者と同じですが、資格要件や研修要件が異なっています。

児童発達支援管理責任者

児童発達支援管理責任者(児発管)は、放課後等デイサービスや児童発達支援など児童を対象とした障害福祉事業でサービス管理を行う者です。具体的な業務は、サービス管理責任者とほぼ同様で、サービス提供の全体管理や保護者相談の対応などを行います。児童発達支援管理責任者としての業務に支障がなければ、他の職種と兼務が認められる場合もあります。

サービス管理責任者と同様に要件としては、実務経験が必要ですが、従事するべき事業所や内容などの要件が異なっています。こちらも保有資格や従事業務などによって、「3年」「5年」「8年」などの必要な経験年数が定められており、これらの実務経験に加えて、さらに基礎研修と実践研修を修了しなくてはなりません。

放課後等デイサービスや児童発達支援では、児童発達支援管理責任者を1人以上配置しなくてはならず、1人以上は常勤専従でなくてはなりません。

常勤換算

常勤換算とは、1ヶ月(4週間)を基本として、非常勤職員の勤務時間をすべて加算し、その職場の常勤職員の勤務時間で割ったものです。言い換えると、その非常勤職員が常勤にして何人になるかに換算して計算して評価する方法と言えます。人手が不足しがちな介護や障害の福祉事業分野では、正職員やパートなど労働時間が異なる人材の活用が必須であり、これら働き方の多様性も含めて人員基準を評価する必要性から導入されている概念といえます。

例えば、その事業所の規定(常勤)の勤務時間が1日8時間・週40時間であった場合に、パートの勤務時間が週20時間の場合には常勤換算は0.5ということになります。この週当たりの勤務時間が32時間を下回る場合は、32時間を基本とします。労働基準法上は週40時間(1日8時間)が基準ですので、常勤換算の基準は32~40時間ということになります。

人員基準の常勤・非常勤の別は、雇用形態にかかわりなくこの常勤換算で評価され、常勤換算1.0以上であれば常勤と評価されます。職種によっては、常勤でなくてはならないものもあり、この評価が重要になってきます。また一人では人員基準を満たせない職種があった場合でも、常勤換算にして合計で配置基準を満たせる場合もあります。一方で専従とは、原則としてサービス提供の時間帯を通じて職務に従事しないことを言います。専従でなければならない職種と兼務が認められる職種(例:管理者兼サービス管理者など)があります。

設備基準

相談室や事務室、作業室、洗面所やトイレなど様々な設備基準が定められており、提供サービスによって大きく異なっています。やはり訪問系より施設系や訓練系の方が、要件が厳しくなっています。

指定のための要件をクリアすることも重要ですが、消防法の要件も重要です。障害福祉事業の指定申請では、必ず消防の防火対象物使用開始届(消防検査済証が必要な場合もあり)を提出する必要があります。これは、消火器・自動火災報知機・スプリンクラーなどの設備が備えられているかなどを管轄の消防署員が確認したうえで発行されるものです。また建築基準法が求める建築確認申請や検査済証も必要です。物件選びや改築工事の際には、十分に注意する必要があります。

運営基準

運営基準も提供サービスごとに、障害者総合支援法などに細かく規定されています。サービス内容の説明と同意、利用利金に関する事項、運営規定に定める事項など共通する部分もあります。申請だけについてであれば実務上は、運営規定に盛り込む内容に配慮することがほとんどです。「虐待の防止のための措置に関する事項」が重視されるようになってきています。

多機能型事業

通常の指定は原則として、1つの物件に一つのサービスですが、複数のサービスを一体的に組み合わせて指定を受けることも可能で、多機能型といわれます。多機能型事務所とは、生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援A型及びB型、児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援などの事業のうち2つ以上の事業を一体的に行うことで、利用者の選択肢が広がることや人員・運営基準の特例の対象となることなどのメリットがあります。

単独のサービスで事業所指定を受けるには、原則として最低20人(一部例外あり)の定員が必要になります。しかし、多機能型であれば最低6人(一部例外あり)の定員で、複数のサービスを合わせた合計の定員が20人以上(一部例外あり)であれば認められます。

  • 多機能型における各サービスの定員区分の例
    • 生活介護、就労移行支援、自立訓練(機能訓練、生活訓練)・・・6名以上
    • 就労継続支援A型、就労継続支援B型・・・・・・・・・・・・・10名以上
    • 放課後等デイサービス、児童発達支援・・・・・・・・・・・・10名以上
  • 人員基準の特例
    • 管理者・サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者は各サービスを兼務可能
    • サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者
      多機能型事業所の利用者の数が60人以下の場合・・・1人以上
      多機能型事業所の利用者の数が61人以上の場合・・・1人に60を超えて40人を増すごとに1人を加えた数以上
    • 従業者は兼務できないため、各サービスごとに必要な員数を確保
  • 設備基準の特例
    • サービス提供に支障を来さないよう配慮しつつ、一体的に事業を行う他の多機能型事業所の設備を兼用することが出来る
  • 多機能型と認められるための主な条件
    • 利用申込みに係る調整、職員に対する技術指導等が一体的に行われること
    • 職員の勤務体制、勤務内容等が一元的に管理されていること。必要な場合には随時、異なる場所で行う事業所間で相互支援が行える体制にあること
    • 苦情処理や損害賠償等に際して、一体的な対応ができる体制にあること
    • 事業の目的や運営方針、営業日や営業時間、利用料等を定める同一の運営規程が定められていること
    • 人事、給与・福利厚生等の勤務条件等による職員管理が一元的に行われているとともに、事業所の会計が一元的に管理されていること。
    • 異なる場所で行う事業所間の距離が概ね30分以内で移動可能な距離であって、児童発達支援管理責任者の業務の遂行上支障がないこと

多機能型については、指定権者によって見解が異なることが多々ありますので、担当部局に必ず確認する必要があります。

指定申請の概要

障害福祉事業者の指定申請手続きは、提供サービスの特性を理解したうえで前述までの基準を満たして、指定申請書類一式を取りそろえなくてはなりません。ただ書類を取りそろえて窓口に提出すればよいというものではありません。自治体への事前協議や消防の検査など必要な手順を踏む必要があります。手順や開業までの提出期限などは自治体によって違いがあるので、必ず担当部局に確認する必要があります。事前協議や消防検査、審査期間などを考慮し、開業までのスケジュールを余裕をもって検討しなくてはなりません。

指定申請手続きの流れ

自治体によって多少の違いはありますが、おおむね以下のようになっています。

① 事業計画の作成
設置趣旨、施設の名称、設置予定地(物件)、設備、職員体制などを記載

② 指定等に係る市町村および都道府県との事前協議

③ 市町村からの意見書の交付
生活介護、就労移行支援、就労継続支援A型・B型、自立訓練、共同生活援助、障害者支援施設などで必要

④ 消防使用開始届の作成・提出
消防法で求める設備を設置し、消防に対して防火対象物使用開始届を提出したのち現地調査
検査済証が必要な場合もあり

⑤ 申請(審査期間は概ね30日程度)

⑤ 指定(毎月〇日などと決まっていることが多い)

申請の時期については、「指定を受けようとする日の属する月の前々月の末日まで」など、申請期限が決まっていることが多いので注意が必要です。物件を管轄する所在地の消防署へ相談するタイミングも検討しなくてはなりません。

提出書類

申請にあたっての提出書類は、自治体によって違いがあります。ほとんどの場合、自治体のHP(障害福祉課など)からダウンロード可能で、「申請の手引き」や「提出書類チェックリスト」なども提供されていることが多いです。指定申請書以外にも、付表や別紙、経歴書や実務経験証明書、資格証明書、登記簿謄本、運営規定など多くの添付書類が必要になります。

提出書類は、おおむね以下のようになります。

① 指定申請書(提供サービスに合わせて記載)

② 提供サービスに応じた付表・別紙

② 登記簿謄本、定款(就労継続支援A型)

③ 運営規定

④ 事業計画書

⑤ 事業所の所在地市町村からの意見書(必要な提供サービスのみ)

⑥ 協力医療機関との協定書(必要な提供サービスのみ)

⑦ 消防検査済証(必要な提供サービスのみ)

⑧ 不動産の登記簿謄本(賃貸借契約を結んで利用している不動産については賃貸借契約書の写し)

⑨ 従業者の勤務体制・勤務形態一覧表(資格証・雇用契約書・辞令などの写しも必要)

⑩ 経歴書(管理者・サビ管・サビ提)・実務経験証明書・資格証明書

⑪ 事業所の平面図(各区画の利用方法・備品などの配置・面積などを記載)、事務所内外の写真

⑫ 社会保険・労働保険への加入状況に係る確認票

⑬ 設備・備品等一覧

⑭ 欠格事項に該当しない旨の誓約書

⑮ 利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要

その他、必要と判断される書類の提出を指示される場合もあります。

指定の更新

指定を受けた事業者は、6年ごとに更新の手続きをしなくてはなりません。更新書類の提出期限も定められているので、注意が必要です。

まとめ

以上、障害福祉事業者の指定申請の概要についてみてきました。障害福祉サービスはその種類も多く、制度やサービス内容、申請書式などの変更も多いため、全体として非常に複雑になっています。今回は制度やサービスの種類、指定基準、申請などの概要を見てきましたが、各々のサービスや提出書類の注意点なども多々あります。順次、解説していきたいと思います。