処遇改善加算

年々増大する介護福祉へのニーズに対応するためには、介護職員の確保や定着が不可欠であり、処遇の改善はひとつの大きな要素です。処遇改善加算は、従来は交付金や補助金などの形で実施されてきましたが、その目的や効果を継続したり、手続きや書式の統一を図る観点などから加算という制度として創設されました。
介護サービスに従事する職員の賃金改善は中心的な目的ですが、それだけでなく資質向上やキャリア形成など処遇全般の改善が目的となっているといえます。また事業主に対して、これらの処遇改善に向けた職場環境の整備を促すことも大きな目的になっています。
一方で、多くの介護事業所や障害福祉事業所では、それぞれ整備できる職場環境やキャリア形成制度に違いがあるのも現実です。このような現状から処遇改善加算は、各サービス提供への報酬のような一律の支給ではなく、整備されている職場環境に応じて支給額・支給率などが変わる仕組みになっています。言い換えると、「より努力している事業所へより多く配分する」という理念が見て取れるといえます。
このような処遇改善加算の概要について、主として厚生労働省の資料(画像引用)を参考にしながらみていきます。

全体のイメージ

処遇改善は、介護保険事業所については「介護職員処遇改善」、障害福祉事業にていては「福祉・介護職員処遇改善」と名称が分けられています。申請書式や手続きなどに多少の違いはありますが、制度のしくみはほとんど同じです。
令和4年度改定後の処遇改善加算全体のイメージは、次の図の通りになります。

令和4年度改定後の処遇改善加算の全体イメージ

現行では、このように3つの加算で構成されています。

処遇改善加算

基本となるのは「処遇改善加算Ⅰ~Ⅲ」で、平成23年までは介護職員処遇改善交付金として実施され、平成24年度(2012年)からは現行の加算として実施されています。経過的に要件が減免されたⅣ・Ⅴもありましたが、現在は廃止されています。
この処遇改善加算を取得しないと、その他の加算の取得はできません。加算Ⅰが最も要件が厳しく、加算率が高くなっています。以下、Ⅱ・Ⅲと続きます。以下の図は、それぞれの取得要件の概要です。これらの要件を満たして、就業規則や給与規定、勤務体制表、計画書などの文書に明確化する必要があります。

処遇改善加算の概要

キャリアパス要件

キャリアパスとは、経歴(キャリア:career)とそれを積む道筋(パス:path)のことであり、介護・福祉の分野のみでなく、さまざまな業種や企業でも導入されています。キャリアパスがあることによって、目標ややるべき事などが明確になり、職員のモチベーションや資質の向上、賃金体系の明確化などが期待できます。

処遇改善加算の算定要件には、以下のようなキャリアパス要件が定められています。

① 職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系
役職や給与体系を明確にして、キャリアの仕組をわかりやするすることです。例えば、主任やリーダーなどの役職に任用される基準や就任した際の給与などを明確にすることなどになります。

② 資質向上のための計画の策定・研修の実施や研修の機会の確保
職員の経験や役割などに応じて計画的な研修を行い、スキルアップをはかります。資格取得の知識面・費用面での支援なども含まれます。

③ 経験や資格等に応じた昇給や一定の基準に基づく定期昇給の仕組み
勤続年数や経験、資格取得などによって昇給する仕組みを導入して、明確にすることになります。

職場環境等要件

賃金改善以外の職場環境の改善への取り組みです。入職促進、子育てや介護との両立、多様な働き方、腰痛対策、働きがいの醸成などへの取り組みが挙げられます。

支給方法

処遇改善加算の支給方法や支給時期については管理者の裁量に任せられているため、従業員が手当として受け取る形式や時期・頻度は各事業所で異なります。毎月の給与に加算して支給、賞与や特別手当など一時金として支給、様々な支給方法が認められています。
加算された分は全て支給しなくてはなりませんが、分配方法に関しては特に定められておらず、介護職員の収入向上の目的が果たせていればよいといえます。

なお、加算分(各種の加算分すべて)を支給して職員の給与が増加することによって、社会保険料の支払額も増えることになりますが、社会保険料の増加分は支払われた加算額から控除する(差し引く)ことができます。実務上は、おおむね15%を加算額からあらかじめ控除して、残額を事業所で決めた方法で分配支給し、最後に支給額が加算額を上回るように調整支給することが多いと考えます。

特定処遇改善加算

特定処遇改善加算Ⅰ・Ⅱは、令和元年(2019年)から実施されており、技能や経験のある介護職員の処遇改善を目的として、既存の処遇改善加算に上乗せする形で運用されています。特定加算の方が、要件が厳しく加算率が高くなっています。
介護福祉士の配置要件によって加算率わかれていたり、算定後の分配ルールが定められているなど、算定自体の要件と算定後のルールを混同しやすく複雑と思われます。

特定処遇改善加算の概要

介護福祉士の配置等要件

特定加算Ⅰでは、サービス種別によって定められたサービス提供体制強化加算ⅠまたはⅡを算定していることが必要になります。特定加算Ⅱは、この介護福祉士の配置等要件を満たさないものになります。算定自体には、介護福祉士の人数や勤続年数は問われません。勤続年数10年以上の介護福祉士がいなくては算定できないわけではありません。

算定後の分配ルール

以下の図は、特定加算算定後の分配(支給)ルールの概要です。処遇改善加算と違い、配分のルールが細かく決められています。「経験・技能のある介護職員」というのが、ややわかりにくい点です。これは、「勤続10年以上の介護福祉士」が基準になっていますが、この10年はあくまで事業所の裁量であって、絶対的な要件ではありません。そして、これは分配ルールでの基準であって、算定自体に必要な要件ではない点も注意が必要です。

特定処遇改善加算の分配ルール

ただし、算定後は以下の分配ルールを満たす(例外あり)ことが必要です。

  • 経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善の見込額が月額平均8万円以上、または賃金改善後の賃金の見込額が年額440万円以上であること。
  • 経験・技能のある介護職員の賃金改善の見込額の平均が、他の介護職員の賃金改善の見込額の平均より高いこと。
  • 他の介護職員の賃金改善の見込額の平均が、その他の職種の賃金改善の見込額の2倍以上であること。
  • その他の職種の賃金改善後の賃金の見込額が年額440万円を上回らないこと。

職場環境等改善要件

処遇改善加算の関する職場等改善要件のうち、複数の項目について取り組む必要があります。

見える化要件

上記までの取り組みを自社のホームページ、介護サービス情報表システム障害福祉サービス等情報公表検索サイトに掲載するか、事業所内の見える場所に掲示するなどしなくてはなりません。介護に関しては令和3年度、障害福祉に関しては令和3年度・4年度は、システムの改修などの理由から要件とされませんでした。

ベースアップ等支援加算

ベースアップ等支援加算は最も新しく、令和4年(2022年)の2月~9月に補助金で一時支給され、この賃上げ効果を継続するために同年10月からは加算として創設されました。介護職員の月額賃金を3%程度(月額 9,000 円相当)引き上げることを想定されており、介護職員以外の職種の処遇改善にも柔軟に充てられるなどの特徴があります。
ただし、加算額の3分の2以上を「基本給」などの賃金ベースアップに使用しなくてはならないので注意が必要です。

ベースアップ等支援加算の概要

申請や請求の概要

加算の支給を受けるためには、各々の要件を満たした上で必要な書類をそろえて、所定の手続きを踏まなくてはなりません。手続きとしては、計画書と実績報告書の提出、加算の請求・支払、2つに大きく分けられます。
申請書類は、自治体のホームページからダウンロード可能で、申請の手引きや記載例なども提供されていることが多いです。

申請と請求の流れ

申請先は、介護サービスの場合、指定を受けているサービスや利用者の住所など応じて、指定申請書を提出(利用者がいる)している都道府県もしくは市町村(総合事業など)になります。障害福祉サービスの場合は、事業所所在地の都道府県もしくは政令指定都市・中核市になります。
請求は月ごとに、提供サービスの報酬に加算率を乗じて計算し、まとめて国保連(国民健康保険団体連合会)に対して行います。その後、毎月の介護報酬などといっしょに支払われます。例えば、1月に利用者へ実施→2月に請求・審査→3月に入金という流れになり、入金はサービス提供から2~3か月後になります。
下図は、申請と請求・支払のイメージです。

加算の申請と請求・支払の概要

申請スケジュールは、一般的に次のようになります。

  • 処遇改善計画書   →2月~3月に提出
  • 処遇改善実績報告書 →7月~8月に提出

計画書と実績報告書は、処遇改善加算・特定加算・ベースアップ支援加算がひとまとめになっている場合が多いです。

必要書類

申請には、計画書と体制届・届出書が必要です。また、年度が終了したら実績報告書の提出も必要です。各々の提出期限は、前出の通りです。各々の書類の主な記載内容は以下の通りですが、自治体によって様式や記載内容などが異なりますので確認が必要です。

  • 処遇改善計画書
    • 法人名や事業所番号、事業所の所在地、提供サービス名などの基本情報
    • 賃金改善の見込み額(原則として前年度実績に基づいて計算)
    • 加算要件の取り組み状況(要件を満たしていることのチェックと記載)
    • サービスごとの加算率や算定額(基本情報などが正確に入力されていれば自動的に計算される)
  • 介護給付費等の算定に係る体制等状況一覧表・届出書
    • 法人名や事業所番号、事業所の所在地、提供サービス名などの基本情報
    • 事業所所在地の地域区分(等級)
    • サービスごとの加算取得状況や処遇改善加算の要件チェック
  • 処遇改善実績報告書
    • 法人名や事業所番号、事業所の所在地、提供サービス名などの基本情報
    • 加算の総額と賃金改善所要額(必要支給額)の比較とチェック
    • 各サービス(事業所)ごとの加算額と賃金額の内訳

まとめ

以上、処遇改善加算の概要について見てきました。処遇改善加算によって介護職員などの待遇を改善することは、モチベーションや資質の向上、定着率の改善などをもたらし、ひいては提供サービス全体の質の向上をもたらします。要件を満たして加算を取得することで、事業所の評価向上にもつながります。今回は制度や申請の概要だけを見てきましたが、計画書や実績報告、支給額の算定など注意点が多々あります。順次、解説していきたいと思います。