国、都道府県、市町村などの公共団体は、様々な公共工事や物品購入、役務提供などの仕事を発注しています。そのほとんどは入札の形式で民間業者からの応札を受けることになりますが、公共性のある仕事(公費が投入されている)ため、どんな業者でもよいというわけにはいきません。そこで、公共団体の契約対象として相応しいかどうかを審査する仕組みが必要になります。それが入札参加資格審査になります。その概要を見てみます。
入札参加資格審査
官公庁やその外郭団体などと直接取引(元請となる)をしようとする場合には、入札参加の資格が必要になります。この資格の審査には、発注元の公共団体によって独自の基準やスケジュール、様式などがありますが、経営事項審査などによる客観的評価、定期受付、類似の書式など共通する部分もあります。
所定の書類をそろえて申請し、承認されると入札参加資格者の名簿に登録され、その資格を取得した自治体(該当する資格の種類)での入札に参加することが出来るようになります。
発注機関
発注機関には様々な機関があります。そして入札参加資格は、各々の機関ごとに取得しなければなりません。国の機関であれば全省庁統一資格であり、都道府県や市町村であれば夫々の資格を別個に取得する必要があります。共同受付などもありますが、基本的には別々に申請することになります。
仮に都道府県の資格を取得した場合、県庁の建設工事の入札参加はできますが、県庁所在地のある市町村の庁舎などの建設工事の入札には参加できません。別途、市町村の入札参加資格をしなければなりません。
官公庁 | 参加資格 |
国 | 全省庁統一資格 |
都道府県 | 都道府県ごとの資格(建設工事・建設関連業務は共同受付の場合もあり) |
市町村 | 市町村ごとの資格(建設工事・建設関連業務は共同受付の場合もあり) |
その他 | 広域水道企業団、地方広域水道組合、地方衛生組合、地方塵芥処理組合、土地改良区など(市町村と一体の場合もあり) |
都道府県や一部の市町村は、共同受付の形で申請(窓口)や書式が統一されていることもありますが、多くの市町村やその外郭団体などは独自の申請(窓口)や書式を設けていることが多いです。
業務の種類
自治体によって違いはありますが、だいたい3~4種類の資格に分かれています。これもそれぞれの業務の種類ごとに申請して取得する必要があります。
業務の種類 | 業務内容・納品内容 |
建設工事 | 建設工事 |
建設関連業務 | 測量、設計、建設コンサルタントなど |
物品の製造・販売 | 文具、事務用品、家具類、室内装飾、教材、図書、運動具、日用品、器械器具、車両、医薬品、資材など |
役務の提供 | 印刷、製本、建物・公園・道路の清掃、機械整備、プール管理、害虫駆除・防除、保守点検、各種調査・検査、情報処理、システム開発、運搬業務など |
自治体ごと、業務の種類ごとにそれぞれ取得するので、受注したい業務によって多くの組み合わせがありえます。
受付の種類
受付のタイミングによって、以下の表のように分けられます。
種類 | 業務内容・納品内容 |
定期受付 | 2~3年の間隔で申請を受け付け、次回の定期受付まで有効な参加資格を取得可能。 |
追加受付 | 定期受付の途中で参加資格を申請する手続き。定期受付の中間年や半期などで受け付ける場合がある。次回の定期受付まで有効になる場合が多い。 |
随時受付 | 定期や追加などでなく、いつでも申請可能な手続き。次回の定期受付まで有効になる場合が多い。 |
定期受付で2年サイクルのパターンが最も基本的ですが、追加や随時の受付もあります。地方都市や小都市では定期のみが多く、大都市では随時やっていることもあります。定期受付は、11月~翌年2月頃が多いようです。また、建設工事や建設関連業務は定期受付(共同受付)が多く、物品・役務は随時で個別申請が多い傾向にあります。
スケジュール管理
建設工事や建設関連業務の入札参加資格申請を行うためには、経営事項審査が必須です。このため、決算日から経審結果を受け取るまでの日程と合わせて入札参加資格申請のスケジュールを考えなくてはなりません。特に定期受付で入札参加資格を維持していくためには、経審も維持していくように申請期間から逆算して考える必要があります。
入札参加資格の有効期間は、都道府県や市町村などの場合で定期受付であれば2年が多く、全省庁統一資格は3年になっています。
審査申請の流れ
申請に必要な書類や手引きなどは、ほとんどの場合、自治体のHPからダウンロード可能です。申請は、すべて紙ベースのもの、電子申請で完結するもの、基本情報のみ電子作成して添付書類は紙のものなど自治体や業務の種類によって違いがあります。申請方法も郵送とメールなどの違いがあります。ただ、求められる情報や書類は大体決まっていて、会社の基礎情報、営業実績、資格者数、主観的な項目などになります。
提出書類
申請に際して必要な書類は、申請書と添付書類になります。申請書は自治体によって違いがありますが、記入する内容は共通点が多いです。
申請書以外に必要な書類は、客観評価と主観評価に関するものに大別されます。客観評価は、経審や決算書など数値化できるもので、規模や経営状況などを評価するものです。主観評価は、地域貢献や環境配慮など企業としての独自の取り組みなどを評価するものになり、自治体によって違いがあります。
申請書
申請書の記載事項は、おおよそ以下の通りになっています。
- 法人番号
- 商号もしくは名称
- 所在地や電話番号
- 代表者氏名
- 申請区分(新規・継続)
- 営業種目
- 経営規模および経営状況(数値項目)
- 事業所一覧(事業所が複数ある場合・本社が県外にある場合など)
添付書類
添付書類は、おおよそ以下の通りになっています。建設工事・建設関連業務と物品・役務で違いがあります。
●建設工事・建設関連業務
- 工事経歴書
- 技術職員名簿
- 建設業許可通知書の写しもしくは許可証明書の写し
- 総合評定値通知書の写し
- 登記事項証明書(法人)または身分証明書(個人事業者)
- 申請先自治体一覧表
- 暴力団員等に係る誓約書及び申請者名簿
- 建設工事入札参加資格調書
- 営業所一覧表
- 営業所等の状況調書
- 使用印鑑届(実印と使用印が異なる場合)
- 印鑑証明書(原本)
●物品・役務
- 納税証明書(国税・県税)
- 登記事項証明書(法人)または身分証明書(個人事業者)
- 許可書・認可書・登録証・免状など(該当する場合)
- 決算・財務に関する書類
- 財務諸表2期分(法人の場合)
- 建設業法施行規則に定める財務諸表2期分(建設業許可業者の場合)
- 所得税申告決算書(個人事業者)
- ISOやエコに関する登録証など(該当する場合)
- 障害者雇用状況報告書(法定雇用義務がある場合)
- 委任状(支店長などに入札関連業務を委任する場合)
全省庁統一資格
全省庁統一資格の申請は、オンラインで完結できます。都道府県や市町村の申請に比べると、だいぶ簡素化されています。
格付け(ランク)
建設工事の入札参加資格審査には、格付け(ランク)制度とというものがあります。これは、建設業許可業者の事業規模や技術的能力などに応じた工事を受注できるよう、業者のランクを分けて妥当なすみわけを行うものです。
この格付け(ランク)は、客観的評価と主観的評価を点数化して段階評価することによって行われ、S~Cの4段階やA~Cの3段階などのように分けられます。そのランクによって、受注できる金額が変わることになります。
発注機関(自治体や官公庁)によって様々な独自の基準を設けています。都道府県レベルでは、経審の総合評定値(P)や技術職員数などの客観的指標に、社会貢献活動(防災協定・献血など)や安全衛生・ダイバーシティへの取り組みなど主観的指標を加点して総合評価することが多いようです。法定外労災への加入が必須条件になっている場合もあります。一方で市町村レベルでは、経審の総合評定値(P)のみでランク分けするところもあります。対象となる建設業種も、自治体によってまちまちです。
以下の表は、建設業種ごとの格付けと請負可能金額の区分表の例(抜粋)です。特定建設業に該当するような上位のランク(S・Aなど)では、一部に請負可能金額の範囲がオーバーラップする場合もあるようです。市町村レベルでは、もっとシンプルなことが多いです。
業種 | 格付 | 技術者数 | 総合点数 | 発注額(元請負可能工事金額)の範囲 |
土木 | S | 12人(5人) | 1,120点以上 | 4千万円以上 |
A | 5人(2人) | 900~1,119点 | 3千万円以上2億円未満 | |
B | 720~899点 | 1千万円以上3千万円未満 | ||
C | 719点以下 | 1千万円未満 | ||
建築 | S | 9人(5人) | 1,040点以上 | 4千万円以上 |
A | 4人(2人) | 900~1,039点 | 3千万円以上2億円未満 | |
B | 680~899点 | 1千万円以上3千万円未満 | ||
C | 679点以下 | 1千万円未満 | ||
電気 | A | 6人 | 870点以上 | 1千万円以上 |
B | 869点以下 | 1千万円未満 | ||
管 | A | 4人 | 740点以上 | 1千万円以上 |
B | 739点以下 | 1千万円未満 | ||
舗装 | A | 5人 | 920点以上 | 1千万円以上 |
B | 919点以下 | 1千万円未満 |
※ 技術者数の()書きは1級の技術者
受注したい業種・金額のランクを目指していくことになりますが、ランク毎に入札可能な金額の範囲が定められていることには注意が必要です。すなわち、取得したランクの発注金額の範囲内の工事しか入札することが出来ず、その上のランクはもちろんのこと、下のランクの工事にも入札することはできません。上のランクをとったからと言って、下のランクにも入札できるわけではないのです。これは、建設業者の規模や技術力などに応じて、公平な競争を担保し、建設業の健全な発達を促進する目的があると考えられます。
まとめ
以上、入札参加資格審査の概要について見てきました。入札参加には多くの業務(品目)があり、発注元である官公庁によっても様々な違いがあります。建設工事と物品・役務の違いもあります。これらの違いを理解したうえで、スケジュール管理やランクについても考えていかなくてはなりません。
まだまだ発注元ごとの個別申請や紙ベースでの申請が多いですが、今後は共同受付や電子申請も増えていくと思われます。